ウタ日記

浮遊することばと追いかけっこ

夕餉前

レシートを一枚毎に丸めつつ転がす吐息夕餉の匂い

 
ソプラノの声は出ずとも甲高く話す彼女のスカートふわり
 
珈琲を前に溢るることのはにジャズの不定形リズムのゆらぎ
 
米粒の色生活の色それは白身体を紡ぐケミカルも白
 
朝の日の力を両手に受取りし夕餉前には使い果たすも
 
筍を一本糠を少し買い持ち重りの肩片方上げて
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

芽吹き

並木道芽吹きの枝は蒼くなり歩く歩幅を少し大きく

桜花儚くなりて芽吹く木々色も緑のみにもあらず

今日も駆け込む地下鉄汗ばみぬ芽吹きの黄緑蒼さを増して

今朝焼けたクロワッサンのサクサクと芽吹きの黄色、今日がはじまる

祈りは

問題はそこではなくて此処なのです松林図屏風に末魔の声聞く

今日のこと明日やるべきこと並べては入れ替え続け夜更けのカルヴァドス

頷けば右目にかかる前髪の鬱陶しくも愛おしくあり

診察室より呼ばれし老女に「頑張って」声で背を押す、娘だろうか

ぐるり囲う待合室の空を飛ぶ氏名の数ほど祈りはありて

身に付いたショートカットを伸ばしつつ抜ける日近き予感迫れり

ケンチャヤシ顧みられずも繁りをり娘の精気を奪うと母は

音もなくゆれる山茶花窓越しに見る吾一人こちらに座れり
「幸せが逃げちゃうよ」と友の言う気づけないほど詰んだ溜め息
疎まれても健気な植物忽然と45ℓ袋の中に
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

卒業

此処かしこ枝にたわわな寒椿半ズボンの膝小僧駆けてくる

 

花びらの滴る血赤山茶花よ空より射られ側溝染むる

 

桜花何回卒業しただろう心躍らせ振り切っただろう

 

紅を引くような未練を抱きつつ薄桃グロス塗りて卒業

 

無防備な横顔君を忘れまじ「またね」言いそびれて二度と言えない

 

桜草何かを伝えて咲く花かミルクティー色陽射すベランダに

 

放たれた言葉は泡に呑まれおり黄金色と深紅の花

 

ピンクちゃんそんな名前を鉢植えにテレビを見つつ一輪咲いたね

 

とちおとめ今日は安く買い求め帰り路すがら紫陽花芽吹く

 

春メイクチークはピーチをふんわりと電球のもと色引く綿菓子