生き死ぬ
朝焼けが琵琶湖に浮かぶ水鏡迫り来る野火生き死にを見ゆ
熊野路に一歩踏み込みするすると吾溶けゆきて影さえもなく
祭り
鉢巻は揃いのねじり鳶の衆水打つ観衆得意は木遣り
足下に手拭い一本落ちており神輿の後れ毛ほつれたように
ヨソラに飛ばせ届かぬおもひ
瑠璃色の空さえざえと震えおりアンテナにひっかかる二日月
水面に一滴の波紋ひろがるを吾も歌いたしアンテナの先
卵とミルク、そしてバニラ
春浅き夜唐突にカスタードプリンの香り脳内に湧き
夕餉前
レシートを一枚毎に丸めつつ転がす吐息夕餉の匂い
ソプラノの声は出ずとも甲高く話す彼女のスカートふわり
珈琲を前に溢るることのはにジャズの不定形リズムのゆらぎ
米粒の色生活の色それは白身体を紡ぐケミカルも白
朝の日の力を両手に受取りし夕餉前には使い果たすも
筍を一本糠を少し買い持ち重りの肩片方上げて
晩春
紅牡丹陽射し眩しと葉に隠れ今や遅しと土に還らん
指先にちさき米粒二つ三つ今朝の青空飛ぶ千切れ雲
芽吹き
並木道芽吹きの枝は蒼くなり歩く歩幅を少し大きく
桜花儚くなりて芽吹く木々色も緑のみにもあらず
今日も駆け込む地下鉄汗ばみぬ芽吹きの黄緑蒼さを増して
今朝焼けたクロワッサンのサクサクと芽吹きの黄色、今日がはじまる